(00)主治医のひとりごと(その4)

 しかし、私の呼吸器科医としての存在意義がなくなるかもしれないという予想は、悲しいかな、そんなに単純なものではなかった。それは、ある程度の発作から解放されるようになると、人間の本性として無理をしてしまうことであった。つまり発作はないが、人並みに活動したいと思うと様々な生活制限がでてくることであった。おそらく、吸入ステロイドが普及し喘息がある程度“克服”され、“喘息恐るに足らず”と思っている医師にはこのような制限生活などはほとんど目に止まらなかったのではないだろうか?
 私がこのような生活制限に気がついたのは、(2)(3)の患者さんのお陰である。従来のピークフロー値の基準では不十分なのだと。また、このことに気付いた私は、片っ端から、「発作がなく何ともない。」と言う患者さんにピークフローを吹かせてみた。やはりほとんどの患者さんは基準値以下であった。「本当に何ともないの?」と聞き返してみると、出てくること出てくること。階段が一気に上れない。全速力で走れない。朝咳が出る。喘息の患者さんなら当り前のことかもしれないが、“朝”というのは午前3時頃の場合がほとんどなのである。おそらく普通の人間なら、早くて6時遅くても7時半頃をイメージするのではないだろうか?午前3時に目が覚めるのは十分な睡眠障害ではなかろうか?それでもこれらの症状は以前の苦しさに比べたら楽な方だと言う患者さんがほとんどだ。しかし、大切なことはこうした症状を続けている患者さんの多くは、風邪をひいては発作を起こしいつかは時間外外来のお世話になるのである。これは吸入ステロイドがもたらした新しい喘息管理の問題と考えられる。どうしたらこれらの日常生活制限が脱することができるのであろうか?私なりのその答えは、ピークフローメーターと全身ステロイドである。

主治医のひとりごと 目次へ