<FONT SIZE=3>(7)主治医のコメント(その2)

 これまでの喘息治療薬は、発作を持続的に和らげる薬剤、またステロイドに代わる副作用のない“抗喘息薬”と呼ばれる予防薬を中心として開発されてきた経緯があります。一つの薬が発見され世に出るまでには何十年という年月と経費がかかります。従って、今世に出回っている喘息治療薬のほとんどは、新発売の薬剤とは言ってもこうした背景がありますので、必ずしも“新しい”とは言えない面があるのです。しかも薬価が高く設定されていますので、皆さんの負担も自ずと大きくなるのです。これに反して吸入ステロイドはこうした時代の要求とは別に、言ってみれば副作用のないステロイドとして偶然にその効果が認められた画期的な薬剤と言ってよいでしょう。吸入ステロイドの効果が世に認められだした時期にほぼ一致して、これまで治験開発されてきた新しい抗喘息薬が次々と世に出回るようになりました。従って、これまでの抗喘息薬と吸入ステロイドとを合理的に共存させて行くにはどうしても無理があると考えられます。
 従来の治療法を大切にしてきた先生方、あるいは新しい抗喘息薬の開発を手がけてきた先生方や製薬会社にとって、吸入ステロイドはそう簡単には受け入れ難い薬剤であったはずです。もっと現実的なことを言えば、吸入ステロイドは自分たちの存在すら脅かされるかもしれないほど“恐ろしい”意味合いをもつ薬剤であったと思われます。いろいろな事情が複雑に絡んでいますので、吸入ステロイドは素晴しい薬剤とは思っていても、従来の薬剤や新しい抗喘息薬も受け入れて行く、これは実に日本的なやり方だと思います。私自身もそう考えていた時期がありました。しかし、さきほどの経緯で開発されたあまりにも前近代的な薬剤が次から次へと発売され、さほど効くとは思えないしかも高価な薬剤が世に出回るようになり、もう我慢ができなくなったのです。膨れ上る一方の医療費や一向に改善されぬ喘息患者の生活の質を考えると、“良いものは良い”そして“効かないものは効かない”とはっきり言わなくてはいけないと考えるようになったのです。おそらくここまで言い切った医者はあまりいないと思いますが、内心は私と同じ気持ちである医師は結構多いのではないかと思います。大昔よりステロイドは一番効果のある喘息薬であった訳ですが、長期間使用すると副作用が出るために、それに代わる薬剤をということでいろいろな薬剤の開発が始まったところに、副作用のない吸入ステロイドが登場したのですから、吸入ステロイドが一番良いのは当り前のことなのです。

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