(7)主治医のコメント(その3)
この吸入ステロイドの普及によって、私はさらに2つことが明らかになったと思います。
1つ目はピークフローメーターの普及です。何故かといいますと、吸入ステロイドは指示通り行えば副作用がない薬剤ですから、調子の悪い時は増量し良くなったら減量することが可能だからです。この目安にと家で簡単に肺活量が測れるピークフローメーターがクローズアップされてきたのです。ピークフローメーターはそんなに新しいものではなく、以前から喘息の病態解明や新しい治療法の判定などに用いられていましたが、いま一つ注目されませんでした。しかし、吸入ステロイドによる“喘息の自己管理”が注目されるようになり、一躍クローズアップされるようになったのです。種類もたくさん出回るようになりました。
2つ目は、これは私の個人的な考えですが、このピークフローメーターの普及によってこれまで副作用が怖くてあまり用いられなかった全身性ステロイドが十分にかつ目標を設定して使えるようになったということです(ピークフローメーターを指標としたステロイド治療)。まさにこの方がよい例だと思います。特に吸入ステロイドの欠点である気道が細くなった状態を改善してくれるのが、全身性ステロイドなのです。すなわち吸入ステロイドと全身性ステロイドをうまく組み合わせることで、これまで経験できなかったような質の高い日常生活が得られる可能性がでてきたのです。
皮肉なことに、喘息治療にとって夢のような吸入ステロイドは、外用薬であるとか、あまり薬価を高く設定すると乱用されてしまうなどの理由からか、非常に安価な薬剤なのです。たった1種類の予防薬の薬価の何分の1というのが実情なのです。これは、逆の意味でいくら使っても儲からないという欠点もあります。ここに医療経済の難しさがあるのかもしれません。私たちが患者さん一人一人に十分に時間をかけて病状や薬の効果や副作用を説明するより、あまり説明に時間をかけずさほど効くとは思えない多くの薬剤を処方したほうが儲かるという現在の医療体制を是非見直して頂きたいものです。
発作が頻繁で喘息の状態が余り良くない時は、気管支拡張剤など様々な薬剤が必要になりますが、一旦気道の炎症が鎮静化され始めると、これまでの薬剤はほとんど必要でなくなるはずです(→(5)17歳、女子)。そして、ステロイドを上手に使って良い状態に達すれば、ピークフローメーターで毎日モニターすることで、吸入ステロイドも含めて薬剤から離脱することが可能になります(→(9)45歳、男性)。極端に言ってしまうと喘息の管理はピークフローメーターとステロイドで十分であるというのが、私の考えです。
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