(6)主治医のコメント(その2)

 この母親からの手紙は、予備校に通うそんな彼がピークフローを記録しなくなった経緯を書いてくれたものです。ここで、私は是非彼に伝えなければならないことがあったので受診を勧めました。もちろん性格にもよるのですが、一つ大きな勘違いをしているとすれば、ピークフロー値が下がったから、喘息が悪くなったと気にする必要はどこにもなく、私の指示通り吸入をしていても値が下がったとしたら、それは医師である私の責任であること、つまり吸入が不十分なだけで回数を増やせば良いだけのこと、を告げました。
 彼が十分納得したかどうかは不明でしたが、その後母親だけがピークフローの記録を持参し、私がそれを見、指示と投薬をするという日々が続きました。そして春が来て、私は吉報を待ちました。元来成績は良いと聞いていたのでさほど心配はしていませんでした。しかし、お母さんの友人から聞いた話では、なんと受験した高校が全滅であったというのでした。しかも、成績は十分であったのに“不登校”のため出席日数が足りないというのがその理由だったらしいのです。私は愕然として言葉が出ませんでした。喘息を克服してせっかく1年間頑張って勉強してきたのに...。
 何日も悩んだ挙句、彼は予備校に通って大学入試の資格を取るコースに進むことを決めたのでした。私自身いたたまれない日々が続きました。彼が受けた仕打ちこそ、喘息児が受けた取り返しのつかない“傷”以外の何でありましょうか?喘息は大人になれば治るかもしれませんが、この傷はどうすることもできないのです。もっと早く軽症のうちから吸入ステロイドを使って喘息をもっともっと良くしてあげることができていればと、悔やんでも悔やみ切れません。今となっては、「この悔しさをバネに何とか大学に合格して欲しい」とただ願うばかりです。「高校へ行くだけがすべてではない」と言葉で言うのは簡単ですが、いつかきっとそう思える日が来ると信じてとにかく頑張って下さい。

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