(6)主治医のコメント(その1)

 彼は5歳の時より小児喘息として小児科で診てもらっていたのですが、中学を卒業ということで内科の方に回ってきました。彼の場合、これまで入院を要するような大きな発作はありませんでした。このお母さんからの手紙は、私が診るようになってPF値をつけるように指示したのですが、この文面のようにPF値が低下すると落ち込んで自信をなくしてしまうため、記録させていない旨を私に手紙で知らせてくれたものです。
 彼の場合たくさんの考えさせられる事がありましたので、ここに紹介したいと思いました。実は彼は中学3年間ほとんどといってよいほど学校に通っていなかったいわゆる“不登校”であったのです。彼の場合入院するような大きな発作はなかったらしいのですが、これはお母さんから聞いた話ですが、喘息に伴う痰が汚いと同級生に思われるのがとても嫌だったというのも不登校の一つの原因であったということでした。喘息児がすべて不登校になる訳ではなく、確かにこの子の場合は性格的な要因もあって不登校になったのだと思います。しかし、もしもっと早くその一つの要因であった痰を除去してあげることができていたらどうなっていたであろうと考えると悔やまれてなりません。彼の場合、吸入ステロイドは行われていませんでした。喘息治療のガイドラインに記載されているとおり、インタールやテオドールのRTC療法(→(5)を参照)で“発作がなく”良くコントロールされていたから当然といえば当然のことなのです。
 最初に私のところへ来た彼に私は、ピークフローの記録と吸入ステロイドを指示しました。その理由は、これまでの治療にても、毎日朝と夕喘鳴があり、走ると息切れし、風邪を引きやすいなど、発作以外の数々の日常生活制限が観察されたからです。吸入ステロイドを開始した彼の生活の変化は、まずPF値が400台から600台へ上昇したこと(ピークフロー値の変化)、また母親の弁によると、「発作の不安が減少した」、「風邪を引いても長引かなくなった」などでした。彼は、高校浪人を決意し予備校に通い始め、勉強に励む毎日を送ることになったのです。

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