(4)主治医のコメント(その1)

 この方の場合、総合病院に入院していたのですがあまり良くならず、退院したその足で私のもとを訪れました。この方からの手紙もいろいろな点で貴重な内容を含んでいると思います。
 1)まず、喘息の発症について。他の人の手記からも伺えることですが、決して喘息は、子供の頃からアレルギー体質のある人にばかり発症する病気ではなく、まったく喘息の素因がない人にでも起こりうる疾患であることは、喘息でない健康な人にも教訓になるかと思います。またその誘因が“風邪”が長引きこじらせたことにあることは非常に重要です。“風邪は万病のもと”、昔の人の言うことは決して間違っていないのだなと感心させられます。
 2)発作から意識を失い救急車で運ばれた様子は、とても貴重な情報を与えてくれていると思います。よく、“喘息死”という言葉を聞くことは多いと思いますが、ほとんどの喘息の患者さんは、自分と無縁のことと考えているのではないでしょうか?この方の場合、意識を失うその日に病院で点滴を受けているのです。それでも、発作から意識を失ってしまったです。おそらく粘稠性の痰が太い気道を閉塞し窒息してしまったのでしょう。この人の場合、家族の人がまだ寝ずに起きていたことが不幸中の幸いでした。もし、周囲に誰もいなければ、彼女は間違いなく“喘息死”に至っていたでしょう。決して脅かしているわけではありませんが、“喘息死”はいつも隣り合せであることを胆に命じて頂きたいと思います。
 これと関連することですが、よくこのような状態で“喘息死”に至った人の状況を観察しますと、気管支拡張剤のスプレーを握り締めたまま亡くなっていることが多く、そのことから、気管支拡張剤の乱用は喘息死の引き金になるのではないかと考えられた時期がありました。もともと気管支拡張剤は心臓を刺激します。その乱用により心停止を来したことが“喘息死”の原因であると考えられたのです。よくアロテックやベロテックなどの気管支拡張剤の使用は1日3回までとか注釈を受けたことがある方は多いと思いますが、それはこの“喘息死”に対する配慮に由来するものと思われます。
 しかし、最近では見解が違ってきています。つまり、気管支拡張剤を比較的大量に吸入で連用してもさほど心臓刺激性は少ないことが判明してきたのです。“喘息死”する患者さんは気管支拡張剤を過信するあまり、「吸入すれば大丈夫。」と苦しいと何度も使用し、本来なら病院を受診すべきなほど病状が悪化しているのにその時期を失してしまう。そのうちにこの方のように痰をつまらせて窒息してしまう。死のぎりぎりの状態まで気管支拡張剤を使用しているわけですから、当然亡くなった患者さんは気管支拡張剤を握りしめているか、遺体の周辺に気管支拡張剤が転がっていたりする訳です。
 私は、苦しい時は我慢しないで早目に気管支拡張剤を吸入するように指導しています。むしろ、我慢することが病状の悪化を招くからです。回数も特に制限を設けていませんが、大切なことは2、3回気管支拡張剤を吸入してもすぐ苦しくなる時は、早目に病院を受診し点滴を受けることなのです。

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