岩手医科大学臨床検査医学講座

第25回 日本臨床検査医学会東北支部例会


特別講演 「ヒトゲノム解析研究の最前線」  
慶應義塾大学医学部分子生物学 教授

 清水 信義

 
 30億塩基対からなるヒトの設計図ゲノムを全解読するというヒトゲノム解析は国際協力プロジェクトとして1991年に開始され、2003年をゴールに推進されている。我々は1999年12月に、英米チームとの協力で22番染色体のシーケンシング完了に初めて成功し、一つの染色体の全貌を明らかにしただけでなく少なくとも545個の遺伝子を発見した。次いで、2000年5月には日独チームの協力で21番染色体の解読にも参画し、225個の遺伝子発見に貢献した。さらに、2000年6月には全世界16チームとともにヒトゲノムドラフトシーケンス(設計図の概要版)を報告し、約32,000個の遺伝子を含む成果を2001年2月に公表した。このように、ヒトゲノムの解読はその壮大で尊厳ある目標の達成に刻々と迫っているが、その完全解読にはまだまだ世界の英知と厖大なエネルギーが投入されねばならない。
 それでもその成果のヒト生物学・医学へのインパクトは計り知れなく、すでに疾患原因遺伝子の同定や発症の分子機構の解析、さらには治療や予防、健康維持のための新たな医学研究「ゲノム医学」が展開されている。この「ゲノム医学」は、ゲノムの個人差という角度からも追及され、生活習慣病に関連する遺伝子の解明や個性に合った医薬の処方・開発など多大な可能性が期待されている。
 我々は長年、慶應ゲノム戦略に基づくヒトゲノム解析を推進する中で、数百個の遺伝子を同定し、その中からいくつかの疾患原因遺伝子を発見した。それらは若年性パーキンソン病の原因遺伝子Parkin、緑内障の原因遺伝子Myocilin、自己免疫疾患APECEDの原因遺伝子Aire、難聴の原因遺伝子TMPRSS3、ダウン症に関連する遺伝子Single-minded2, Minibrain, DSCR5, DSCR6などであり、それぞれの遺伝子の発現調節と産生される蛋白質の機能解析を進めている。本講演では、慶應大チームが発見したいくつかの疾患原因遺伝子の成果をまじえてヒトゲノム解析研究の最前線を紹介し、新たな医療、特に臨床検査医学へのインパクトを考察する。

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