(8)50歳、女性。(その2)

 これはまた、そんなに夜遅くない時間でした。喉の締め付けと上胸部の圧迫による息苦しさに襲われ、何度か拡張剤を吸ったのですが、発作は治まらず病院に走ったのです。その夜の当直医は呼吸器の先生で、前にも何回か診察をして頂いた先生でしたので内心ほっとしたものを感じました。しかし、
「喘鳴が聞こえないのでステロイドは必要ないね。」
と言い切ったのです。点滴を始めて30分が過ぎても息苦しさは止まらず、それどころか体の力が抜ける様に意識が薄れていくのです。名前を呼ぶ看護婦さんの声を何度か聞いたように思います。
「主治医の先生の通りにステロイド点滴をお願い出来ませんか。処方指示も出ていますし、内科外来でも受けている患者さんですから。」
と見かねた看護婦さんが助け船を出してくれたのですが、
「あと30分位様子をみよう。それでも駄目ならその時に足すから。」
この時の苦しさはさることながら、辛さと不安が募ったことが忘れられません。その後30分が経過しても苦しさは治まらず、外したステロイド薬を入れてもらう。呼吸が楽になる、悔し涙を堪えた。
「あなたは喘息ではないんじゃないか?」
と言って同じベッドに腰を降ろし顔を覗き込む。
「それなら先生は私の病気をどう診断されますか?」
「わからない...。」
この言葉がその晩の当直医、呼吸器専門のドクターの答えでした。この様な不確かな答えを聞かされた時、私たち患者はどうすればよいのでしょうか。発作は治まっていても空気の薄さを常に感じ声がかすれている。声に力が入ると、息苦しさが起き、会話が辛くなる。こんな病状を誰にわかってもらえるのですか?呼吸が楽に出来ればスローペースながらも動ける、台所に立つ喜びも味わえる。こんなささやかな喜びなど誰にもわからないだろうと思います。ピークフロー値が下がる。ただただ息苦しさが始まると動けず座り込む。柱や壁に寄りかかり吸入剤を握り締め、苦しさが治まるのを待つだけ。咳込まず、痰も出ず、喘息もない。それでいて臭いや僅な動きで呼吸困難が起こる。

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