(8)50歳、女性。(その5)
「青色信号による快適な生活を過ごしてみませんか。」「家族や医療従事者に迷惑をかけていませんか。」と書かれた7ページの手作りミニブックを主治医の先生に手渡された時、私も生きられる、そう思えました。そのミニブックには気管支喘息の病態、ピークフロー値の変化、対応する症状が図解されてあり、またステロイドによる全身治療、ステロイドの副作用が克明に書き記されていたからです。大きな病院の大きな組織の中で、喘息の治療として初めて試みる先生には並々ならぬご苦労があったことは、入院の許可が出て実際に入院出来たことで初めて知ることが出来ました。それだけにこの入院治療に関してはどんなことがあろうと成功させなければならないという使命感が私の心の中にありました。入院の治療目的は“ピークフロー値を500まで上げること”でした。
入院病棟まで歩き、パジャマに着替える。息苦しさが起きる。朝食のゴマ油の臭いに入院中の食事が不安になる。
その夜からステロイドの点滴の治療が開始された。土・日のお見舞客、入退院に付き添って来られる方、他の患者さんの診察に来られる先生方のタバコ等の臭いに病院に居ながらにして悩む。治療の効果が予想外に現われない。また病棟主治医の若い先生との意志の疎通がとれず、私の心の中では焦りが起きていました。総廻診に同行する呼吸器の先生方の小さな声の囁きあう視線が冷たく感じたのも6回目の入院を繰り返している私の僻かも知れませんが辛かった。入院18日目にして目標値500を達成できたその時のうれしさに涙が止まりませんでした。午後の検温に来られた看護婦さんに泣き顔を見られるのが恥ずかしくて
「差し込む太陽が眩しすぎる。」
と、バスタオルで顔を隠す。
「絶対に良くなるから。」
と病室に来られる度に繰り返し励まし続けてくれた先生。聴診器を使った診察は一度もなさらず、ピークフローの吹き方の確認と入院生活のストレス解消をしてくれる話し相手、それも聞き役でした。病院食で出た甘塩の紅鮭と鱈の粕漬の魚が食べられた。美味しかった。うれしかった。とピークフロー日誌に書きました。
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