(10)主治医のコメント(その5)

 ステロイドは喘息の病態に根本的に作用する薬剤ではあっても、決して喘息を“根治”に至らしめる治療法ではありません。それは、ステロイドで気道の炎症をほぼ完全に除去しても、薬剤を中止すると数ヵ月の単位で気道炎症は再燃してくる事実があるからです。この意味で、喘息は“根治しない病気”と言えるのです。最近、欧米では臓器移植が盛んに行われるようになって、この喘息の“完治”に関して面白い事実がわかってきました。それは、健康な人に事故でなくなった喘息患者さんの肺を移植するとその人は喘息になってしまい、逆に喘息の人に健康な人の肺を移植したら喘息は起こらなくなった、というのです。この細かな点に関してはまだ議論があるところですが、もしこの話が事実とすると、真の意味で喘息の“完治”とは臓器移植しかないのかもしれません。
 喘息の症状は、“いつも半分首を絞められたまま生活しているようなもの”と表現しています。喘息の苦しさがわからない人に私はよく、「指で鼻の穴を挟んで塞ぎ、口笛を吹くように唇をすぼめて呼吸をしてみて下さい。その状態で2階まで一気に階段を登れますか?恐らく苦しくて、すぼめた唇を緩めるか、塞いだ手を放してしまうでしょう。しかし、喘息の患者さんは、治療しなければその苦しさから逃れられないのです。」と説明します。もし、苦しさをわかってもらえない家族や、苦しくて受診したのに何も適切な処置をしてくれない医師がいたら、こう聞き返してみて下さい。きっとわかってくれ適切な処置を施してくれるでしょう。

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