(3)主治医のコメント(その2)
私は、彼女からもいろいろなことを学ばせてもらいました。(2)の患者さん同様、喘息の患者さんのピークフロー値が上がらないのは、決して体力がないからではなく単に気管支が細くなっているからであって、この狭窄をステロイドで完全にとってあげると、喘息の患者さんはむしろ健常者を上回ることができる!これは、裏を返せば喘息の人の目標ピークフロー値は健常者の平均値ではなく、それ以上でなくてはまだまだ不十分なのだと(気道炎症と肺活量の関係)。そして、よく生理や気候のせいで発作が起きるというのは、“喘息だから”ではなくて“喘息の状態が悪いから”なのだと。また、一旦気管支が丈夫になると生理でも多少の気候の変化があっても発作は起こらないのだと。従って、積極的にステロイドで気道の炎症をとってあげれば喘息とて正常と何ら変わらない生活が送れるはずなのです。
喘息で吸入ステロイドを始め最大限の薬物療法を行っても、度々発作を起こし救急外来でネブライザーや点滴を受ける方は結構いるのですが、そうした方々の背景をよく聞いてみますと、夫が寝たきりで自分以外に世話をする人がいない、仕事が忙しくてどうしても安静を保てない、など自分の身体のことを第一に考えない方が多いようです。現在、彼女はご主人が大きな病院で大手術を受け、看病で忙しい日々を送っています。しかし、あれほど喘息で苦しめられた彼女が、ピークフロー値を500近く維持したまま発作一つなく元気にご主人の看病ができるのも、一時的に入院や外来でステロイド点滴を行いベストに近い状態まで引き上げることができたからだと思います。もし、治療不十分のままご主人が手術に入ったとしたら、恐らく危なかったのは彼女の方であったと思います。つまり、看病の疲れで大きな発作を度々起こしたことは間違いないでしょう。彼女のように、一度ベストの状態に到達すると、ピークフローを記録し、ある一定値が維持できれば、多少の無理をしても発作は起きないし、ご主人の大手術という人生最大の山場でさえ乗り越えることができるのです。自分や家族にはいつ何が起こるか予想することはできません。そうした不意の出来事に十分対処できるようにするためにも、最良のピークフロー値を維持しておくことは非常に大切であると思います。
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