(1)主治医のコメント(その3)

 ・「退院を目標にしているのですからもう少し我慢させて下さい。」との看護婦さんのからの声。痛い、苦しいを緩和できなくて何のための医療であるのでしょうか?病院で治すことのできなかった喘息が退院して治るはずなどありえません。さらには、息苦しさを我慢させることほど、低酸素状態への慣れや喘息死の危険など喘息病状に悪影響を与えることはないのです。
 ・10ヵ月の闘病生活で変化したこの子の身体に対する母親の観察。これこそステロイドを使わない弊害を如実に表わしていると考えられます。小児科の先生がステロイドを使いたがらない最大の理由は、骨代謝への影響と成長の遅れであると思うのですが、ステロイドを使わないとこの児のように喘息自体で成長は止まってしまうのです。それでも、「この時期さえ乗り切れば小児喘息は治る。」と言う小児科の先生がいるかもしれません。しかし、喘息で苦しい闘病生活を送り、今ではすっかり良くなった患者さんから当時のことについて今回のように感想文などを書いてもらうと、「苦しくても我慢しなさい。」とか「発作は気の持ち方一つ。」など、苦しい時にささやかれた親や医療従事者からの心無い一言一言に深く傷つけられ、今だに憎悪の念を抱いていることに驚かされます。小児科から引き継いだ思春期喘息患者は、発作はなくても何らかの形で喘息による日常生活制限を受けていることが多く、仮にまったく症状が消失している患者でも、苦しかった時期に受けたさまざまな心の傷は一生癒えないのです。小児喘息を体験してきた喘息児の中には暗い性格の子が多いように思うのは私だけの偏見でしょうか?“小児喘息は大人になれば治る”などと考えないで、子供が子供らしく生きられる一生に一度しかない大切な時期を失わないようにするためにも、喘息児はもっともっと吸入ステロイドの恩恵を受けて然るべきであり、そのように導いてあげることが我々医師の義務であると考えます。

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