(1)主治医のコメント(その2)

1週間後外来に来た彼はとても元気でした。
「もう何ともないよ。」
吸入ステロイドも指示通り行っておりPF値も350で安定しており、一緒に来たおばあちゃんが、
「お陰様で家庭内が明るくなりました。」
と感謝してくれました。
 私は、前医の治療法を咎めるつもりはありません。ここで私は、これらの“手紙”から伝わってくるように、喘息治療に対するさまざまな誤解や思い込みが喘息児を悲惨な状態に引きずり込んでいるのではないかという問題提起をしたいのです。
 私はこの手紙を何度も読み返しました。何が一番悲惨かというと、この子の病気が現代医療の限りを尽くしても治すことのできない難病であるなら仕方ないとしても、きちんと加療すればすっかり良くすることができる“気管支喘息”であったことであります。すなわち、ステロイドの恐怖感のみが先行し、ステロイドを使うべき時に使わなかった点が一番の問題と考えられます。さらに、喘息の病態を良くする根本的治療と喘息を悪化させない補助療法とを混同している点であると考えられます。
この手紙について具体的に私の意見を述べますと、
 ・喘息治療における“環境改善”について。私は環境改善に反対はしませんが、喘息はいったいどれだけお金をかけたら治せる病気なのでしょうか?1日2〜3回の掃除機がけなど共働きの夫婦には不可能ですし、フローリングなどの改築は、普通ならまず借金から始まるはずです。
 ・猫のいる家庭に遊びに行かぬことは、社交を断てと言っているようにさえ聞こえます。もし猫を飼っている家の子が無二の親友であっても遊びに行けないのでしょうか?
 ・“喘息は怖い病気だから遠出はせず、家にいるより病院にいる方がいい”との説明。確かに私の診ている患者さんにも、発作を繰り返し遠距離旅行は控えた方がいいと思う方はいます。だからといっていつまでも遠出ができないとすれば何のための人生なのでしょうか?喘息患者はゴルフをしたりエアロビをしたり健康者と同じ生活は送れないのでしょうか?いや、まさに喘息治療の目標はここにあるのであり、それが現在では可能なのです。

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