(10)主治医のコメント(その3)
喘息の治療法に関する情報は氾濫しており、患者さんや小さいお子さんをお持ちのお母さんは混乱する一方で、何を信じたら良いかわからなくなるのが現状であると思います。この方も、色々な情報を得、色々試してみたようでした。ここでとても大切だなと思ったのは、“どれもそれなりの効果があったように思いますが、完治に至るものには巡り会いませんでした”との表現でした。結論から申し上げますと、少なくても現時点で学会レベルで世界的に認められている喘息完治の治療法は存在しておりません。もし、ある喘息が“完治”したというような治療法の情報を得たとしても、それは恐らく一部の患者さんがたまたま良くなった場合がほとんどで、実際に同じ治療で良くならない人も多くいるはずです。また、完治といっても、単にたまたましばらく発作が起きないだけかもしれず、走るとゼイゼイする、風邪を引いたらまた発作が起きてしまった、などの結末が多いようです。喘息が“完治”することは、“一切の治療なしで、原因であるハウスダストやダニなどが多い環境で普通に生活しても、発作はおろか一切の生活制限がなく健康人と同じ事ができる状態”であると思います。悲しいことですが、万人がこの状態に至るような治療法は少なくとも、現在の医学レベルでは存在しません。この意味で、我々専門医は
“喘息は完治しない病気である”
と言います。しかし、その言葉の裏には、
“喘息はきちんと治療し日常生活に気を配ることで、副作用なく快適な生活が送れますよ。”
との意味が含まれています。以前、医学雑誌の吸入ステロイド治療に関する紙上座談会で、ある小児科の先生が、
「内科の先生はすぐ、喘息は治らない病気だから一生薬は飲み続ければならないと絶望的な事を言う。しかし、我々小児科医が子供にそんなことを言ったら子供も親も暗くなってしまう。私はいつも、大きくなったらきっと喘息は治るから頑張ろうねと希望を持たせるように話しをしています。」
と述べていました。私は、内科の先生も小児科の先生の言うこともどちらも一理あると思いますが、その奥にある喘息治療の“ゴール”の意味に違いがあることはもうおわかりでしょう。
本人の手紙へ | 奥様の手紙へ | ←主治医のコメント→ | 目次へ |
---|