(10)主治医のコメント(その2)

 この方を診察した時の印象は、(1)の喘息児と同じように、顔が青ざめていて苦しいはずなのに苦しくないと言っていた点でした。つまり長引く低酸素状態になれていて、ちょっと無理をすれば、喘息死を起こしかねない状態であったのです。事実、奥様からの手紙に書いてあるように、1度は呼吸停止状態で救急車で運ばれたようでした。“15年余り、治ることなく深く静かに悪化の一途でした”―これは、的確に喘息の病状の進行を表わしていると思いました。つまり、最初から重症の喘息など存在しないのです。初期治療が不的確になされると、この方のように徐々に悪化するのが喘息なのです。
 私は、喘息の患者さんを発作の回数や程度で、軽症、中等症、重症、難治性と分ける方法には賛同しかねます。これらはすべて発作という症状によって分類されているのです。この分け方は、広く喘息治療のガイドラインとして採用されていますが、専門でない医者がこれを読むと、喘息患者には軽症から難治性までの何種類かの型が存在していて、それぞれに適したマニュアル通りの治療をしなければならないと考えてしまうからです。しかし、多くの患者さんは、重症化するまでに発作が起きても長い間病院を受診しない場合が多いですし、また喘息専門医がいる大きな病院にたどり着くまでには、かかりつけの医者に風邪として何年も治療されていることがほとんどです。こうして徐々に悪化進行して行くものであって、一人の患者さんの立場で言えば、軽症から中等症へ、中等症から重症へと簡単に移行することが多いのも事実で、喘息は決して固定した病気ではなく日々変動する病気であると思います。この意味でも客観的に信じることができるのはピークフロー値であると思います。

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