(9)主治医のコメント(その3)

 以前、喘息の研究会で、私が、
「たとえ吸入や投薬を中止しても、できれば一生ピークフロー記録を続けるべきだ。」
と発言した際、ある小児科の先生から、
「それでは、子供の場合、一生喘息という病気から逃れられず、精神衛生上も良くないのではないか?」
との主旨の質問を受けたことがあります。この先生が言いたかったことは恐らく、
「“喘息=発作”であるから、苦しい病気のことが頭からいつもはなれないのは、子供の発育上も精神衛生上も問題なのではないか?子供の場合、毎日ピークフローをつけると言っても遊びに夢中になって記録を忘れることも多いし、そんな時あたかも宿題を忘れたように親や先生から叱られたのではたまらない。子供の場合、薬さえきちんと飲んでいて発作が起きなければ、ピークフロー値の変動に一喜一憂するよりも、喘息のことは忘れて伸び伸びと自由にさせた方が良いのではないか?」
という意味だと思います。しかし、吸入ステロイドを中止してしばらくは安定しているようでも、無理をしたり風邪を引いたりすると結局発作は起きてしまいます。また、いつ発作が起きるかもしれない、だから運動もできないし、遠出もできないという不安な状態が続くのでは、それこそ精神衛生上問題なのではないでしょうか?私は、喘息で苦しい時こそ喘息の事を忘れるべきであり、逆に調子の良い時ほど自分が喘息である事を忘れるべきではないという考えをもっています。従って、ピークフローを記録し続けることは、決して喘息の暗いイメージとつきあうことではないと思うのです。
(16)で紹介する小学3年生の女の子などは、ピークフローをつけるのが楽しくて仕方がないと言います。毎日記録することで、自分の調子がよくわかり生活に自信がもてるというのです。毎日発作が起きるような状態でピークフロー値を計測し、悪い値を見て毎日気分が暗くなるとしたら、それは精神衛生上大問題でしょうが、そんな状態では記録する意味がありません。その状態から脱却するためにピークフローをつける必要があるのです。ピークフローは良い状態の時にこそ記録すべきものなのです。

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