(5)主治医のコメント(その1)
彼女の感性は本当にするどいと思いました。私がこの寄稿集で取り上げたかった小児気管支喘息治療の問題点を的確に表現してくれています。
私は、子供の場合は“発作”という症状で喘息の病態を判断してはいけないという考えを抱いています。それは、子供の場合発作がなくてもさまざまな日常生活制限を受けていて、可愛そうなことに子供はそれをうまく表現できない点です。そして、それが性格形成に大きな影響を与えるうること、また仮に小児喘息は大人になると治ると言われていますが、苦しい時に受けた“心の傷”は一生癒えないことです。
(1)の小学5年生の子の場合もそうでしたが、子供にとって最も辛いのは友人と同じことができないこと、あるいはこの彼女がマラソンを完走して“普通”のことをしただけなのに喘息だからと特別扱いされることのようです。子供の場合は特に多少体調が悪くても構わず、皆と同じように振る舞う。しかし、やはり喘息で苦しいから皆について行けなくなる。そして知らず知らず、体力的な劣等感に陥ってしまう。これは、発作がなく安定していると思われる時でも、“気道炎症”で気管が細くなっているために起こることです。発作がなくても、吸入ステロイドで十分炎症を取ってあげることができたら、どれだけ楽に“普通”の生活が送れることでしょう。
風邪の咳と喘息の咳について書かれていますが、経験したことのある患者さんは非常に多いと思います。気道に炎症があると風邪を引きやすい(ウイルス感染を起こしやすい)し、風邪を引くと発作を引き起こしやすくなります。よく「風邪なのか喘息なのかわからない」と言う人がいますが、これは要するに「鶏が先か、卵が先か」と同じ論理の悪循環で、どちらかを絶たなければならないのです。どちらかといえば、風邪が治っても気道に炎症が残っていればまた風邪を引きますので、やはり吸入ステロイドで気道の炎症を完全にとり気道を丈夫にすることが先決でしょう。事実、気道粘膜が丈夫になると風邪を引きにくくなり、仮に引いても彼女が言うように発作が誘発されなくなる。“ただの風邪”に終わってしまうのです。
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