(2)主治医のコメント(その1)

 「医師は患者から学ぶことを忘れてはいけない、患者こそ唯一の教科書である。」というのが我々の医学教育で教わったことです。つまり、教科書に書いてあることよりも患者さんが訴えることのほうが重要であるという意味ですが、この点で、私はこの方から喘息についてたくさんのことを学ばせていただきました。なかでも、2つの点は私にとって重要でした。
 1つ目は、メドロールというステロイド剤との出会い。ステロイドには、たくさんの種類があり、注射・経口・吸入と投与方法もさまざまです。そのなかで、メドロールという経口ステロイドは、標準的なステロイドであるプレドニンと比べて、より肺に集まりやすく、また同じ量を投与しても喘息の気道炎症を7〜8倍も鎮めてくれるのです。さらには、代表的なステロイドの副作用である副腎皮質抑制(もともとのホルモンを分泌する働きを弱くしてしまう作用)も少ないとされているのです。このようにまさに“気管支喘息治療のためにある”ようなメドロールを使うようになって、彼女は“発作”を起こさなくなりました。発症からの約10年間で17回も入院を繰り返した彼女にとってこれは画期的なことでした。そして、1年半の間通院を繰り返す日々が続いたある日、体力に自信がついた彼女から仕事をしたい旨を告げられました。私自身は実はとても不安でした。しかし、私自身判断をしかねていたところに、彼女から「決まりました。」と報告を受けました。その後、元気に働いている姿を見て私自身が自信をつけることができました。
 2つ目は、喘息患者のもつベストのPF値についてです。仕事を続けながらも、PF値を500程度に維持していたのですが、仕事を始めて1年の間に2度ほど、点滴を受ける程ではありませんでしたが、風邪からPF値の低下をきたし、咳と痰が出現し始めたことがあるのです。その時は、仕事を休ませ手持ちのメドロールを6錠まで増やしてPF値が元の500に戻るまで服用させました。最初は仕事をしているのだから、時々PF値が下がるのは仕方ないことなのか?と思っていたのですが、次の(3)の患者さんのところでも述べてありますが、もしかしたらこれまで理想としてきたPF値500という値は、彼女の自己ベストではないのではないか?と考えるようになったのです。幸い、年末年始も近づいて長期休暇を取れる状態にあったので、「喘息のあまり悪くない今の状態から、メドロールを6錠に増やしてみては?」と持ちかけました。その結果、彼女のPF値は500前後からぐんぐん上昇し、ついに610を記録したのでした(ピークフロー値の変化)。これは私にとって大変な驚きでした。この値は健常男性なみの値であり、喘息患者さんは潜在的には健康人より肺活量が大きいのだ!と、教えてくれたのです。一度600付近を経験してしまうと、今までの500という一見良い状態は、実はまだまだ気道炎症の残る不完全な状態であったと思えるようになったのです(気道の炎症と肺活量の関係)。その後の彼女は、550前後でPF値は安定しており、以前のような風邪でPF値が下がることはなくなりましたし、仮に下がったとしてもまた一定期間メドロールを投与して600近くまで戻せばよいだけの話です。

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